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Der Nanny マンズ・ナニー

ドイツ映画 (2015)

フランス映画『レオとテオ』(2013)に続く、男性ベビーシッター/ナニー映画。『レオとテオ』の2年後に、フランスの隣国ドイツで作られたというのは面白い。しかし、この2つは両極端と言えるほど似ていない。①フランス版では20歳のベビーシッター、ドイツ版では40代後半のナニー、②フランス版では最初からベビーシッターになるつもりだったが、ドイツ版ではディベロッパーによる地上げでアパートを壊された男が、「思い知らせてやる」と抗議に行き、超多忙な父親に口をはさむことができないうちにナニーになっていた、③フランス版ではシッターの対象は大人しい少年だが、ドイツ版では3ヶ月で4人のナニーに嫌がらせをして追い出したツワモノ姉弟のペア、④フランス版の主役は、少年とシッター、ドイツ版では、ナニーと姉弟の父、そして、最大の違いは、⑤フランス版では、少年とシッターの心理的な描写が主題だったのに対し、ドイツ版では再開発をやめさせようとするナニーと、事業を推進しようとする事業主(姉弟の父)とのせめぎ合いが主題。だから、姉弟は脇役でしかない。強いて類似点を探せば、舞台が首都パリ→首都ベルリン、大きな庭付きの立派な家→広大な庭園を持つ本格的城館の2点くらい。姉弟は、携帯が離せないほどの仕事の鬼の父親に全く構ってもらえず、母が亡くなったためナニーが住み込むが、父への当て付けから過激な方法で追い出してばかり(とてもコミカル)。それに加え、(a)主人公の男性ナニーと再開発対象地区の住民との関係、(b)父と出資者の女性資産家との関係にもコミカルな描写が多い。早い話が、一種のドタバタで、そのためか受賞歴はゼロ、IMGbも5.7と冴えない。しかし、このようなひどい「地上げ」が2015年に映画化されるということは、「火のないところに煙は立たぬ」なので、ドイツにおける社会問題を垣間見ると言いう点では面白い(?)かも。なお、あらすじでは、このサイトは 映画自体の紹介ではないので、上記の(a)と(b)は割愛する。

“Klina&Debray” というディベロッパー会社がベルリン市内で進めている “Fisher Bay Estate” の再開発が映画の背景にある。この会社の共同経営者の1人Klina(クリーメンス・クリーナ)には、2人の子供、ヴィニーとテオがいる。しかし、妻を亡くした父は、会社の切り盛りに忙殺され、とても子供の面倒などみておれない。そこで24時間対応のナニーを雇うのだが、母を亡くした上、父まで仕事に盗られた子供たちの失望と怒りは大きく、雇われるナニーをどんどん追い出してしまう。社運を賭けた大プロジェクトの準備が大詰めを迎える中、7人目のナニーが出て行き、派遣会社からはブラックリストに乗せられ、来手がなくなってしまう。困り果てた父の元に、1人の中年の汚い男性ロルフが現れる。元々は再開発予定地区に住んでいて、住んでいたアパートが取り壊され、抗議するために来たのだが、新しいナニー志望者と勘違いした父親の、超多忙な雰囲気に気おされて口を開くこともできず、ナニーになるよう迫られる。ロルフは、社長と一緒にいれば、再開発の断念を迫る機会もあるかと思って了承する。そこから、ロルフとヴィニーとテオの奇妙で面白い関係が始まる。最初、2人はロルフを追い出そうとするが、作戦は2つとも失敗する。そして、ヴィニーとテオが学校で起こした暴力事件をきっかけに、「家族で筏を作って乗る」というセラピーへの参加が退学を避ける唯一の道となる。ここで、父は、子供たちとの触れ合いの大切さをロルフから忠告され、かつ、ロルフが2人の子供から信頼されるていることを見せつけられる。しかし、セラピーの後、調子に乗ったロルフは、一家を再開発予定地区の真ん中にある居住者の溜まり場の店に連れて行ったことで、逆に父の反撥心を煽ってしまう。父と共同経営者は、翌日の着工に向けて奔走し始め、子供たちは館に缶詰にされる。セラピーとは正反対の行動だ。ヴィニーが楽しみにしていた下町でのパーティ(彼氏も参加する)へ行くことも禁止される。ヴィニーの心情を知ったロルフは2時間の制約付きでこっそり行かせて感謝される。ただ、ヴィニーは、パーティで「理想の彼氏」に接近する勇気がないため酒を飲んでいて、指定された門限にも戻ってこない。そこで、ロルフはテオを連れて迎えにいくが、ヴィニーのとんでもない行動に巻き込まれる。ヴィニーを勝手にパーティに行かせたことと、父親失格と苦言を呈したことから、ロルフはクビになる。そして、翌日、再開発予定地区の既存建物を撤去する日、ヴィニーとテオは、ロルフを救うため開発反対のデモに参加し、父と対峙する…

アーヴィト・フリーズ(Arved Friese)は、撮影時12歳。役柄上、ひねくれた表情が多く、心理的に深い演技も要求されないが、存在感はある。


あらすじ

ロルフはベルリンの大手ディベロッパーが再開発の準備を進めている旧市街に住んでいる40代後半の男性。無職。自分の住んでいるアパートが、今まさに取り壊されようとしている。そこで、ロルフは自分の体を冷蔵庫に鎖で縛り付け、「来て見やがれ! ここは俺のウチだ! 立ち退くもんか! 徹底抗戦だ!」と叫んでいる。しかし、重機の音とともに、何かが飛んで来る音が聞こえ、「何だ?」。その瞬間、窓をぶち壊して、直径1メートルほどの鋼球が飛び込む。鋼球は反対側の窓も壁ごと壊して外に出て行く。恐怖で絶叫するロルフ。ここが、ロルフのダメなところなのだが、ショックで鎖の鍵を落としてしまい、逃げようにも逃げられないので再び絶叫。その頃、アパートの外では、大手ディベロッパーの社長(?)〔2人の共同経営なのでどちらが社長か不明〕クリーメンスは、外で、「あの叫び声は何だ?」と現場責任者に訊いている。「中で誰か体を張って抵抗しているようです」。「ポカンとしとらんで、さっさと排除しろ」。鋼球は別の壁から再び飛び込み、ロルフの頭を掠めて(1枚目の写真) 反対側の壁から出て行く。もう部屋の中はぐちゃぐちゃだ。ロルフは、「外したな! ざまあみろ! 貴様らには俺は動かせんぞ!」と怒鳴る。しかし、ロルフは、4人の作業員によって、冷蔵庫ごと運び出される。「くそ、降ろせ! 聞こえんのか、降ろしやがれ!」。クリーメンスを乗せたヘリが飛び立っていく。そして、全景が映る(2枚目の写真)。赤い矢印は鋼球。その右が完全に破壊されたロルフの部屋。黄色の矢印はロルフを載せた冷蔵庫。青の矢印はクリーメンスのヘリ。それにしても、中に人がいることを確かめもしないで、このような作業をするとは思えない。コメディー映画とは言え、やり過ぎだとは思うが、最初に鋼球が飛び込んできた時の、“いったい これは何だ?” という意外感はなかなかのもの。ヘリの中で、クリーメンスは、出資候補者にスカイプで通話している。「ニールスン夫人、これこそ最高の物件で、2億ユーロ〔約260億円〕の純益が見込めます。これは、あなたに対する 共同経営者と私からの独占的なオファーです。素晴らしい立地での第一級の不動産ですよ」(3枚目の写真)。パソコンの画面は、右側が本社。共同経営者と、開発予定地の建築模型(矢印)が映る。左側はクリーメンス。夫人は、「もし、私が出資しなかったら。あなた方は1億ユーロの損失をこうむるはず。だから、もし、私に1.5億出して欲しいなら、もっと納得させてもらわないと」と言う。あまり乗り気でないのか、そう思わせたいのか。
  
  
  

クリーメンスの自宅では、長女のヴィニーが、新しくきたナニーに話しかけている。「なぜ、ナニーになったの?」。「子供が とっても好きなの。抱きしめたくなっちゃう。だって、子供は 悪巧みをしたり、嘘をついたりしないでしょ」。「自分で、つくればいいのに」。「うまくいかなくて」。「誰も、あんたに入れたくなかったんだ」。いよいよ本領発揮。「もし私が男だったら、あんたと一発やるくらいだったら、おちんちんチョン切って、汽車の下に投げちゃう」。「麻薬やってるの?」。「ホントのことを言っただけ。ほら、私 子供でしょ。嘘はつかないの」(1枚目の写真)。「よくも言ったわね。なんて、下品で、胸の悪くなる、忌まわしい子なの」。「あんたって、醜いわ。カンジダとヘルペスに複合感染したみたい。メイクを洗い落としたら、あごひげが見えるんじゃない?」。ナニーは、怒って自分の部屋に行き、ベッドに腰を下すと泣き出す。すると、ドアがバタンと閉まり、鍵がかかり、窓のシャッターが下がり、部屋が真っ暗になる。ナニーは、携帯で2人の父親を呼び出す。その時、後ろから呼ぶ声がして(2枚目の写真、矢印は真っ黒なボディ・スーツを着た弟のテオ)、ナニーをスタンガンで襲う。部屋から叫び声が聞こえる(父親にも聞こえる)。にんまりと笑うヴィニー。ナニーの悲鳴を聞いて駆けつけた父は、荷物を持って出て行くナニーと出会う。彼女は、「あなたの子供は、サイコパスよ」と言い、父がどう慰留しても去って行った。それを、見て2人はほくそえむ(3枚目の写真)。
  
  
  

父は、「3ヶ月で4人目のナニーだぞ!」と怒る。ヴィニー:「12ヶ月で7人目よ」。「いい加減にしろ。私は忙しいんだ。誰かが、お前たちの面倒をみなくちゃならん」。ヴィニー:「誰も要らないわ」。テオ:「クリーメンス、ナニーなんてロクデナシばっかだ」(1枚目の写真)〔「パパ」と言わず、父を名前で呼んでいる〕。「バカ言うんじゃない。彼女は、一流の紹介所から来たんだ」。ヴィニー:「あの人、精神的に不安定なの。私、好きになろうとしたのよ。そしたら、何て言ったと思う? 醜いって言ったのよ」。「本当か?」。テオ:「そうだよ。それに、僕のこと、年の割りにチビで、ドワーフだって」(2枚目の写真)。「何だと?」。ヴィニー:「どれだけ傷付いたか分かる?」。テオ:「トラウマになっちゃった」。父は、悲しそうな顔をして、「それはひどい話だな」と真面目な顔で言い、こっちへおいでと抱き寄せようとする。2人が寄っていくと、急に背を伸ばし、「私をおちょくる気か! 一言も信じられん!」と怒鳴る。そして、「新しいナニーを呼ぶ。いくらだっている」と言い、「ナニーって怖いの…」と2人の真似をして “ザマミロ顔” をする。思惑が外れてがっかりする2人(3枚目の写真、ヴィニーのセーターの日本語が面白い)。
  
  
  

しかし、父が最初に電話をしたナニー紹介所では、父が名前を言った途端、電話が切られる。それを見てニヤニヤする2人。父は、「喜ぶのは早い」と言って、2つ目に電話をかける。ここは、電話を切らなかった。代わりに、「よくまあ電話をかけられますね。私たちのナニーがどうなったか忘れたんですか?」とだけは言ってくれた。1人目のナニーは、トイレの最中にテオが電気を流して感電、2人目のナニーは、寝ている間に、巻き毛の一部をハサミで切られ、額に「PENIS」と書かれ、鼻の下には髭も(1枚目の写真、矢印は切られた巻き毛)。一番ひどかったのは3人目。ナニーが玄関を見おろす場所に来ると、下では、テオがヴィニーの右腕を電動ノコギリで切断して立っている(2枚目の写真)。そして、テオはナニーを見上げると、「みんなお前のせいだ。次はお前だぞ、この淫売!」と言って睨む(3枚目の写真)。これでは、どこからも断られるハズだ。
  
  
  

父は、再び2人の前に立つ。「いったいどうする気だ? 私には仕事がある。時間がない。最高の人を雇ったのに…」。ヴィニー:「誰も 見つからなかった」(1枚目の写真)。「見つけるさ」。「見つからない」。その時、父の「家」の門の前に1人の男がやってきた。あのロルフだ(2枚目の写真)。正面に見えるのは、ブルグシャイダンゲン城(Schloss Burgscheidungen)の城館と庭園。8世紀由来で、1732年バロック風に全面改修された城で、ライプチヒの西南西50キロに位置している〔映画の舞台のベルリンとは何の関係もない。ベルリンから180キロ=東京が舞台の映画で、松本城が出てきたような感じ〕。城の正面に広がる庭園は、イタリアン・バロック風のテラス式庭園で、中央のバルコニー風のテラスは、かつてヴェルサイユ宮殿にあったテテュスのグロット(La grotte de Téthys、~1684年)を模したもの。ここで、ロルフがここに現れるまでのいきさつを簡単に触れておこう。ロルフは、行きつけのパブ、アングラー・エック(Angler Eck)〔2015年まで実在した店〕で、アパートが取り壊されたことをみんなに慰められている。ロルフはTVで銃撃シーンを見ているうち、「クリーナ〔クリーメンスの姓〕のトコに行って、二度と会いたくないと震え上がらせてやろう」と思い立つ。そして、ロルフは単身で「城」に向かった。ロルフは、テラスとテラスをつなぐ斜路をひらすら登り、くたびれ果てて城館まで登る。そして、玄関に入ったところで、携帯でまくし立てているクリーメンスを見つけ、殴ろうと手を上げるが、「1秒待って、電話中だ」と言われ、勢いが削がれる。クリーメンスは電話を打ち切ると、新しいナニーが来たと思い、「来てくれてありがとう。会えてどんなに嬉しいか分かるかね?」と笑いかける。「いいや」。また電話がかかってくる。今度は共同経営者から。「面接があるんだ。かけ直すよ」。父が共同経営者に説明している間に、ヴィニーが来て、「はっきりさせとくわ。あんたの可能性はゼロ」と話しかける。「何?」。ロルフは混乱の極み。「あんたみたいに醜い女、見たことない」。そこに、電話を終えた父が戻って来て、娘に 「ヴィニー、意外だったろ」と言い、ロルフには 「来てくれて大歓迎だ。どこの紹介所から?」と訊く。ロルフが口をパクパクさせていると、「失礼、何か飲物でも?」と訊き、答を待たずに、ヴィニーに「水を持って来てあげなさい」と命じる。ヴィニーは父の前なので、いい子ぶって、「それ したかったの」と水を取りに行く。ロルフが何か言いかけると、「まあ、とにかく座って」。そして、「希望の金額はある?」と訊く。「金のためじゃ…」。「信念の人か」。ここで、また電話。「失礼、すぐ戻る」。父が去ると、背後から「何だ、男じゃないか」と、声がする(3枚目の写真)。テオだ。ロルフ:「君は?」。テオ:「最悪の悪夢」。「何て?」。戻って来た父:「これは、息子のテオだ。もう紹介は済んだみたいだな」。そして、隣の部屋に連れて行く。「月、1900ユ-ロ。どうかな?」。「いや、あの…」。「じゃあ、2500」。「いや、そんな積り…」。「分かった、3000〔約39万円〕だ。子供たちは、新しいナニーを待ち望んでる」。「ナニー?」。「この場合は、マニーかな」。口下手のロルフが何も言えないうちに、早口で頭の回転の早い父が、誤解したまま、あっという間に決めていく。かくして、ロルフは、24時間、食事・宿泊込みのナニーとなった。その時、ドアが開いて、ヴィニーが水を持って来る。「どうぞ。地獄へようこそ、ゴラム」。そして、2人は微笑む。とても怖い微笑だ(4枚目の写真)。
  
  
  
  

その夜、アングラー・エックに行ったロルフは、ナニーになったことを報告する。耳を疑われるが、24時間会っているうちにクリーナの心を変えてみせる、と宣言する。しかし、そんなバカ話など信用しないマンニとその父は、Narcotriptinなるものを渡す〔ネットでヒット数ゼロなので映画の作り物〕。幻覚剤という設定だが、そんなものを飲ませて何の役に立つのかは不明。翌日7時30分に出勤したロルフ。これからは24時間勤務だ。朝、出資候補者のニールスン夫人から、韓国料理店で2人だけで朝食を、という電話が父に入る。あと1時間しかない。父は、ロルフに子供たちの部屋とロルフの寝室を見せる。さらに庭園に出て、バルコニーまで一緒に下りて行き、その下にある円形池を見せる。そこに入っているのは、ドイツ語でも「koi=鯉」。8匹で15万ユーロ〔1匹あたり約240万円。確かに、2017年8月の高額ペットランキングで錦鯉は6位に入っている。最高額で1匹2000万円とあるので、映画は誇張ではない〕。城館に戻って来たところで、残り50分。キッチンに入って行くと、子供たちは朝食中。ヴィニーはロルフに、「今日の午後、私たち3人だけになるの楽しみにしてる」と話しかける。不気味だ。テオは、「この城の壁ってすごく厚いの知ってた? 助けてって叫んでも誰にも聞こえないよ」。これまた不気味だ(1枚目の写真)。そして、その間にも、ヴィニーは、ロルフに飲ませる「健康トマトジュース」の大コップに、チリソースを丸ごと1本入れている(2枚目の写真)。一方のロルフはクリーメンスのカプチーノにNarcotriptinを入れようと、指示された6滴を数えているうち、うっかり容器をカップの中に落としてしまい、全量が中に入る。ヴィニーは、「ジュース」をロルフに渡し、ロルフは「カプチーノ」をクリーメンスに渡す。新しいナニーを歓迎すべく4人で乾杯。ロルフは、一口飲んで唐辛子入りだと分かるが、意地で飲み干す(3枚目の写真)。
  
  
  

乾杯が済むと、ヴィニーは、「車で待ってる」と言って2人で出て行く。父:「子供達を、送って行ってくれ」。玄関前にあった車はメルセデスのGクラス。「何て学校だい?」。「ホグワーツ」。「ホグワーツ?」。ロルフには、昨日の指輪物語も通じなかったし、今朝のハリー・ポッターも通じなかった。行き先も分からないが、もっとロルフを困らせたのは、オートマチック。日本では99%の普及率だが、ヨーロッパでは、ロルフが乗るような低価格の小型車での普及率は2015-16年でも何と10%。ロルフが戸惑うのは当然だ。テオは、後ろに駐車してあるフェラーリを確認すると、「走行時には “R” に入れるんだ」と教える(1枚目の写真)。「“R”? それって、バックの意味じゃないのか?」。今度は、ヴィニーが 「英語の“run”よ。英語分からないの?」。「“Yes” と “No” と “Come on” だけ」。テオ:「発進させるときは、アクセルをきっちり踏むこと。でないと、ガタガタするんだ」。ロルフが “R” に入れて(2人はニヤリと笑う)、アクセルをしっかり踏むと、車は 後ろに急発進し、勢いよくフェラーリにぶつかる。庭園の階段の前に停めてあったフェラーリは、そのまま階段に向かって動き始める。それに気付いたロルフは、車から飛び降りるが、フェラーリは火花を散らしながら階段を下りて行く(2枚目の写真)。3枚目の写真は、その撮影風景。お城の中にフェラーリを入れて、本当に階段を走らせている。ロルフは必死で追いかけるが、フェラーリはバルコニーまで勢いをつけて下って行くと、石の欄干を突破し、車体を半分空中に出したところで停まった。そのまま落ちれば、鯉の池に落下する。ロルフは、それ以上車が落ちないよう、スポイラーを全力で下に押して(4枚目の写真、矢印は鯉の池)水平にすると、スポイラーに手をかけ、全力で引っ張る。
  
  
  
  

ヴィニーとテオは、それを上から見下ろして、“やった” とばかりに 手をパチンと叩いて大喜び(1枚目の写真)。これで確実にクビになると思ったのだ。その後、フェラーリは車体の重みに耐えかねず、スポイラーだけ残して落下する。館から飛び出してきた父は、姉弟に対し、「信じられん! 気は確かか?! 何てことをする! フェラーリだぞ! 笑い事じゃない!」と怒鳴る。テオは、「一度、徹底的にリラックスしたら?」と言い(2枚目の写真)、ヴィニーは、「クリーメンス、あいつは完全なバカよ。危険だわ。クビにしないと」と言う。父はそんな手にはひっかからない。「ナニーはこのままだ。残念だったな」と言い、さらに、「クリーメンスと呼ぶな。私はお前の父親だ」と注意する。ヴィニー:「干渉しないで、クリーメンス」。可愛い気ゼロの口答えだ。父は、怒って 「部屋に行け!」と言うが、テオが、「学校に行かなくていいの?」と言うと、「車だ! さっさと乗れ!」と怒鳴る。父はバルコニーまで来て、円形池に裏返しに落ちたフェラーリを見る。高価な鯉が死んで浮かんでいる(3枚目の写真)。ロルフ:「魚、可哀想ですね、クリーナさん」「ごめんなさい。車を助けようとしたんですが」「仕事始めの日に! こんなこと生まれて初めてです」。父は、「心配しなくていい。大丈夫。車は完全に壊れたから保険でカバーされる。魚は慙愧に堪えないが… 君がここにいてくれる」とすべての感情を押し殺し、にこやかに、「ようこそ、わが家族へ」と声をかける。父は、過大なストレスで 精神が亢進状態にある。10数分ほど前に飲んだ幻覚剤が効き始めたのかもしれない。
  
  
  

父は、ロルフを横に乗せて、学校まで子供達を送って行く。ロルフはさっき飲まされたチリソースのためお腹がゴロゴロいい、父は大量の幻覚剤で喉がカラカラだ。車から降りた2人に、ロルフが、「君ら、お父さんにキスしないのか?」と訊くと、2人は “まさか、冗談でしょ” という顔をする(1枚目の写真)。ヴィニー:「ありえない」。ヴィニーは、憧れの男子生徒キノの前に行き、「一緒にパーティ行かない?」と言うが、そこに上級生が割り込み、パーティに行く約束を取り付ける。「私が最初に訊いたのに!」。「何よ赤ん坊。卵巣もないくせに。生理だってないんでしょ?」。頭に来たヴィニーは、「そんな口きくな」と怒るが、「6年生が割り込むんじゃない。キノは、あんたにゃもったいないだろ」と言われる。ヴィニーも負けてはいない。「あんたタンポン忘れてるじゃないの」と言い、上級生が心配になって下を向いたのをとらえ、「ここにあるわとよ」と目の前に中指を突き立てる。「私が先に訊いた。何でも好き勝手にできるなんて許せない」。「できるのよ。この負け犬。発育不全は ひっこんでな」。頭にきたヴィニーは、上級生の顔にパンチを食らわす。喧嘩なら負けてはいない。テオも参戦して2対1で取っ組み合いを始める(2枚目の写真)。その間、喉が渇いて死にそうになった父は、校舎内の自販機からジュースパックを出そうと必死(お金を入れても、パックが引っかかって出てこない)。戦いの方は、ヴィニーが上級生の髪から毛をもぎ取り、「エクステ(付け毛)は、あばずれよ!」と叫んだところで、校長が介入する。父とロルフは校長室に呼ばれる。そこで、父が、今まで校長からの警告の手紙を一度も見たことがないことがバレる(父親が子供に対して無関心なためヴィニーとテオが暴力的になる)。校長からは、最後のチャンスとして、家族セラピーに参加しない限り、2人は放校処分にすると言い渡される(3枚目の写真)。その後、父は韓国料理店に行く。幻覚剤のせいで、飾り物のタコが生きているように見える。そこに、ニールスン夫人がやってくる。長い会話だが、ポイントは、「もし、私があなたと一緒にベッドに入るなら、予めきれいにしておいてもらわないと」という言葉。これには、“再開発に協力して欲しいのなら、地上げを完全に済ませなさいという” というニュアンスに、“一緒に寝て” というニュアンスが混じっている。その後、2人は、貸切にした食堂内で激しいセックスをくり広げる。父が幻覚状態にあるため、夫人はいたく満足した様子。
  
  
  

子供達と一緒に帰館したロルフ。父親が夜になっても戻らないので心配になってくる。そこで、情報を求めてヴィニーの部屋をいきなり開け、「お父さんから電話かかってないか?」と訊くが、ノックもなしに入ったので、iPadで自撮り中のヴィニーは追い出される。テオの部屋に行くと、中はがらんどう。部屋の中に屋根裏に上がる階段があり、登りきった所にあるドアには、「入るな」「危険」のサインがベタベタと貼ってある。構わず入ったロルフがテオの姿を見つけて寄って行くと、床のレーザー光線を遮断し、体ごと捕獲用のネットで吊り上げられる。「これ何だ? 助けて! 降ろして!」と叫ぶが、テオは、「警告、読まなかったの?」と言うだけ(1枚目の写真、矢印はネット)。「警告って? 俺は、お父さんから何か聞いてないか知りたかっただけだ!」。「知るもんか」。助けてくれる雰囲気はゼロ。幸いテオの作業が巧くいかず、ロルフが「俺は電気に詳しいんだ」と言ったので、ネットから出してもらえる。そして、ロボット掃除機を簡単に直してしまう。「なんで分かったの?」。「親爺と俺でいろんなものいじくり回したからな。一度、オーブンからテレビを作ろうとしたことがある。それなりにできたが、映らなかった。婆ちゃんに、ケーキが焼けなくなったって叱られちまった」。テオは、「うちのお父さんは、僕と一緒に何かを作るなんて、一度もしなかった」と寂しげに話す(2枚目の写真)。ロルフは、「なあ、助けが欲しかったらいつでも言ってくれ。一緒に住んでるだろ。忘れちゃったかもしれないが、俺はロルフ、君のナニーだ」と言って手を差し出す。テオは微笑んでその手を取る(3枚目の写真)。
  
  
  

父が帰館したのは翌朝。ヨレヨレの状態で昨日の記憶も定かではない。キッチンでは、ロルフが山ほどのパンケーキを焼いて子供達に食べさせている。「いつから朝食にパンケーキを食べるようになったんだ?」。ヴィニー:「新しいナニーが来てからよ」。テオ:「それがどうかした?」(1枚目の写真)。「不健康だ。糖分を取り過ぎる」。ヴィニー:「だから? おいしいわよ」。そして、父は昨日の乱交のままなので、「臭いわね」と指摘。ロルフ:「セラピーの前に、シャワーを浴びないと」。父:「セラピーって?」。父は何も覚えていない。ロルフから校長からの手紙を渡されて、「セラピーの時間なんかない」と言うと、ヴィニーは、「そう、じゃあ退学ね、どうもありがと」。父は、ロルフの言葉に動かされたのか、手紙を読んだためかは分からないが、少し遅れて参加することをOKする。セラピー会場には、「非暴力筏で 暴力性を追い出そう」という横断幕が掲げてあり、中には筏の材料が置いてある。家族で筏を作り、それに一緒に乗ることで対話を進めようとするセラピーだ。責任者が、「あなた方のお子さんが暴力的なのは、好きでなっているんではなく、そうさせられているんです。暴力は生き残るための本能ですが、舵を取り、コントロールしないといけません」と大声で話す。すると、一人の子が、「この くそ下らない筏 作らされるワケ?」と文句を言う(2枚目の写真)。それを聞いたヴィニーが、「ぶさいくなガキね」と言うと、付き添いが「娘ですよ」と言う。ロルフが、「済みません」「ヴィニー、その子のお父さんに謝るんだ」と言うと、「私は母親よ、このドジ男」。娘:「何て、トンカン野郎なの」。母:「トンカンじゃなく、ドンカンでしょ! まともに話せないの?」。娘は怒ってドラム缶を蹴飛ばす。「引っ叩かれたいんかい!」。どちらが暴力的か分からない。ロルフが、筏の組み立て方の紙を読んでいるテオを、「偉いぞ」と褒めると、責任者はすかさず、褒めたことを褒め、いい父親になれると言う。それを聞いたヴィニーは、「バカじゃないの? 父親じゃないわ。フクロウみたいな顔して」と嫌がる。確かに、ロルフはフクロウに似ている。そこに父が携帯で話しながら車から降りて来る。「あれが父親よ」。テオ:「来たんだ」。責任者は父の携帯を取り上げる。向かいでは、さっきの母と娘に、貧相な父親が近付いてきて、母親から「失せな。どっかに」と追っ払われ、隣に座る娘には「背筋を伸ばして」と命令。娘から「大嫌い」と言われ、「このダメ娘」と返し、責任者から「筏を作るんですよ」と諌められ、「うるさい」。ヴィニーとテオは、本来は悪い子ではないので、呆れて見ている(3枚目の写真)。
  
  
  

4人は、手作りの筏で湖に乗り出す(1枚目の写真)。手作りとはいっても、支給されたアルミ製の角材とプラスチックの樽(浮き)をロープで結んだもので、モーターまで付いている。ロルフはいい機会とばかりに、モーターを操作している父の横に座り、再開発の中止の方に話を持っていこうとする。しかし、テオは、「一度くらい、仕事の話、やめたら?」と怒る。それに対しロルフが、「おい、テオ、これは仕事の話じゃない。人命に関わることだ、分かったか?」と叱るように言うと、父は「その口調はなんだ。君はナニーだ」と諌める。ロルフ:「あなたと話そうとしても、いつもいないじゃないか」。父:「昨日来たばかりだろ」。ヴィニー:「気にしないで。私、何年も話そうとしたけど、無理だった」。テオ:「ホントだ。いて欲しい時に 一度もいなかった!」。3人の口論はエスカレートしていく。父:「時間があれば一緒にいたじゃないか」。ヴィニー:「おちょくってるの? そんな時間、一度も作らなかったじゃない!」。テオ:「僕らには、お母さんとお父さんがいた。今は、いなくなった。両方とも!」(2枚目の写真)。父:「家に帰るぞ。ここは、口論の場じゃない」。その時、目の前に小さな島が見える。ロルフはナイフを取り出すと、角材をつないでいたロープを切断する。バラバラになった筏から、全員が湖に転落する(3枚目の写真)。泳げないテオは父に助けられて何とか島に上陸する。筏の残骸は、モーターが動いているので、どこかに行ってしまい、4人は島流しの身となった。
  
  
  

ロルフは、真っ先に、「みんな服を脱いで。でないと、肺炎になって死んじまう」と言う。それを聞いた父が、「ヴィニー、脱いだ方がいい」と近寄って行くと、「放っといて! あんたなんか、大嫌い!」と言って砂をぶつけられる。今度は、テオに方に行く。「失せろ! くそったれ!」。子供たちは上着を脱ぎ、火を起こしてソーセージを焼いている。少し離れて座っている父の所にビールを持っていったロルフは、「子供たちと、うまく行ってないようですね」と話しかける。それを聞いて睨むように見る子供たち(1枚目の写真)。ロルフは自分が子供時代に如何にダメだったかを語った後で、今はかなり冷静になったと述べ、「お子さんたちも冷静です。ある意味で。そして、あなたは、カッコよくて立派です。時間がなくても、もし、チームみたいに助け合えば、何とかなります。2人とも、型破りで機転が利いて面白い子たちじゃないですか」。ここで、声を落として、自分が昨日の朝食で何を飲まされたかを話す。非難するのではなく、許すような口調で。子供たちは、何もすることがなくて退屈そうな顔をしている(2枚目の写真)。「お子さんのことで手助けしますから、俺を助けてくれます?」。「いいとも」。「約束します?」。「ああ」。ロルフは、「考えがあります」と言うと、子供たちの焚き火の前に行き、「君たちのお父さんと話してきた。ちょっと変わってるよな?」。「鈍いのよ」。「そりゃ残念だな。じゃあ…」と言うと、「頑張って」と笑いかけ、そのまま180度向きを変えて湖に入って行った。突然の思わぬ行動に、子供たちも父も仰天する。ロルフのことが好きになっていたテオは、心配になり、立ち上がると「ロルフ?」と呼びかける。「どこに行くの?」。
  
  
  

テオは、「クリーメンスと残されたら、僕たち死んじゃう!」と叫ぶと、父に「彼に何て言ったの?」と訊く。「何も」。ヴィニー:「そんなことどうでもいい。これからどうするの?」。父:「戻ってくれ!」。ロルフは水に潜って姿を消す。父:「泳いで連れ帰るから」。ヴィニー:「テオと2人だけでいるのはイヤ。何か起きたらどうするの? 蚊もダニも、野生の動物だっている。トイレもフェイスブックもない」。「じゃあ、お前が呼びに行け」。「水着 持ってるように見える?」。テオ:「家に帰りたい」。父は、「お前たちがこの島を出て家に帰りたいなら、本物の筏を作ろう。3人でチームみたいに」と提案する。テオが「資材や道具もないのに筏なんか作れないよ」と否定すると(1枚目の写真)、じっと聞いていたロルフが、「俺ならできる!」と叫ぶ。そして、再び水から上がりながら、「さあやろう! ほんのちょっと子供たちといただけで奇跡が起きた!」と言う。そして、先頭に立って島中を捜して筏に使えそうなものを集める。まさに4人の共同作業だ。寄せ集めの材料で作った筏が水に浮き、4人は手製の櫂で漕ぐ(2枚目の写真)。テオが初めて、心からの笑顔を見せる(3枚目の写真)。
  
  
  

その帰り、ロルフは3人をアングラー・エックに連れて行く(1枚目の写真)。父は、再開発地区のど真ん中にある店なので、入るのをためらう。ロルフは、「どんな素晴らしい人々がいるか見て下さい」と頼む。「殺されてしまう」。「大丈夫。それに、俺を助けるって約束したでしょ」。ヴィニーはトイレに行きたいので、勝手に入って行く。仕方なく父も後を追う。ロルフは店の中にいる主だった人を父に紹介する。誰と一緒に入ってきたか名前は伏せているので(「俺の旧友」とだけ言う)、客の方も気付かない。ヴィニーがトイレに行き、父が電話をかけている間、「何が飲みたいの?」と訊かれ、テオは、「セックス・オン・ザ・ビーチ〔ウォッカベースのカクテル〕」と言い、「やめとくよ、本物のオーガズム〔リキュールベースのカクテル〕がいいな」と、わざと性的な名前のカクテル名を並べる(2枚目の写真)。3人がカウンターに揃うと、テオと、マンニ親子の間で、「飲物を喉に入れた状態で発音し、何と言ったかを当てる」ゲームが始まる。勝負は4対0で圧倒的にテオの勝ち。ロルフは父の前に行くと、「ここ、素晴らしいでしょ。これこそ家族なんです。壊しちゃいけません、クリーナさん」と、うっかり名前を言ってしまう。これを耳にしたマンニの父が、「クリーナだと? あの開発野郎か?」と訊く。ロルフは「違う、別のクリーナだ」と言うが、信じる者などいない。マンニ:「ここに来るなんて、何て厚かましい野郎だ」。父は「連れて来られたんだ」と、ロルフを指す。ロルフ:「俺たちのことを知って欲しかったんだ」。マンニ:「これから分からせてやる」。「きっと友達になれる」。「なれんな」。「歩み寄るべきなんだ、マンニ」(3枚目の写真)。そこに、父が、「金なら十分払ってる」「時間の無駄だ。この地域はすべて私の所有物になってる。それをどうしようと、私の勝手だ」と口を出したことから、一触即発状態に。父と2人の子供は、何とか裏口から脱出する。
  
  
  

店の外には、クリーメンスが先ほど電話で呼んだ共同経営者のランドローバーが待っている(1枚目の写真)。共同経営者は、「おい、気は確かか? あんなとこで何してた?」と尋ねる。父は、それには答えず、「退去通知はいつ出す?」と訊く。「決めてない。判事にペントハウスを渡したらすぐ」。父は、「子供を降ろそう。私はニールスン夫人に会いに行く、そっちは判事に行けばいい」。「そりゃいい。明日には全部片がつく。失業ゴミにはいい加減うんざりした」。それを聞いているテオ。一瞬嫌な顔をするが、父に見られて平然とした顔に戻る(2枚目の写真)。館まで送られた2人。父は、「ヴィニー、テオを見ててくれ」と頼む。「パーティに行きたいわ」。「パーティ? そんなのはダメだ」。「どうして」。「まだ子供だ」。そして、「来週、どこか素敵な所に一緒に行こう」という。場所が言えなかったので、共同経営者が「動物園だ」と言うと、ヴィニーは、「自分で行ったら、この猿」〔顔がゴリラっぽい〕と手厳しい。共同経営者:「じゃあ、遊園地だ」。父:「今から仕事がある」。ヴィニー:「このゲス」。そう言って背を向ける。父が「ヴィニー」と声をかけると、今度はテオが、「もうやめろよ」と言って(3枚目の写真)背を向ける。共同経営者が「じゃあ、またな、お二人さん」と声をかけるが、完全無視。
  
  
  

ロルフはマンニ親子から責められ、爆弾を城に仕掛けるよう強制される〔ロルフは、こっそりマンニのバンに隠す〕。夕方、ロルフが爆弾の入ってないケースを両手に抱えて城に帰ると、ヴィニーが屋根の上にいる。びっくりしたロルフは、「そこで何してるんだ?」と訊くが、返ってきたのは、「あんたに関係ない!」という突き放した言葉。しかし、ロルフは心配なので放っておけない。「危険だぞ。降りるんだ」。「ここから動かない」。ヴィニーが飛び降り自殺をするつもりだと早とちりしたロルフは、決死の思いで屋根を伝ってヴィニーの横まで行き、止めようとする。「バカじゃないの? 自殺なんかするはずないでしょ」。「じゃあ、何で?」。「頭にきたから、ここにいる。パーティに行きたかったのに、テオの面倒見させられたの」。そして、パーティに行かないと彼氏を奪われると不満をぶちまける。ロルフは、父親が今夜はきっと帰らないという話を聞くと、「君にとって大切なら、戦うんだ」と言って、「2時間だけパーティに行けよ。俺がテオを見てる」と言う。ヴィニーは 喜んでロルフに抱きつく(1枚目の写真)。ヴィニーがでかけると、ロルフはテオの屋根裏部屋に直行して作業を手伝う。テオが借りていたナイフを返そうとすると、「持ってろ。プレゼントだ」。「もらえないよ」。「あげる」。「ホント? ありがとう」(2枚目の写真)。ヴィニーの方は、パーティ会場のバーで元気付けにウオッカを何杯も飲んでいるだけ。もう2時間はとっくに過ぎている。そこにロルフから電話がかかるが、「今、忙しい」と言って切ってしまう。一方、父は、共同経営者に、ニールスン夫人との話し合いがうまくいったと伝え、共同経営者は「やった! 明日の朝、全部 ぶち壊してやる!」と大喜び。ロルフは、ヴィニーが心配なので、テオを連れてメルセデスで見に行く(3枚目の写真)。「車から離れるんじゃない」。テオ:「OK。ここでショーを楽しんでるよ」。ロルフが去ると、テオは車のヘッドライトを点け、目の前で塀でキスしている男女を眺める。男が顔を上げて睨むと、下をベロベロ動かしてフレンチキスを催促する。年齢の割にマセている。
  
  
  

パーティ会場では、酔っ払ったヴィニーが、「キノ!」と叫びながら昨日の上級生と踊っているキノに寄って行く。上級生:「また来たのね」。ヴィニー:「やあ、キノ。会えて嬉しいわ」。そこにロルフが現れる。「2時間って言ったろ。何、飲んでる?」。上級生は、「素敵ね、ナニーが来たじゃない。おねんねの時間よ」と嫌味。キノが「ナニー? まるでトラニー〔オトコ女〕みたいじゃないか」と言うと、ロルフは、「お前なんか1分でオンナ男にしてやる!」と脅す。そして、ヴィニーを連れ出そうとするが、上級生は、ワザとキノとキスをしてヴィニーにみせびらかす(1枚目の写真)。ロルフはヴィニーを車に押し込むと、ヴィニーの酔いを覚ますため、ソーダを買いに車を離れる。すると、キノと上級生がパーティ会場から出てきて、2人でオートバイに乗るのが見える。上級生:「ヴィニー、あんた後部座席じゃないの? 赤ん坊はベビーシートにお座り」。怒ったヴィニーは、運転席に移ると、酔った勢いでエンジンをかける。そして、前は塀なので、シフトを “R” に入れ、アクセルを踏み込む。急発進した車は、後方の障害物にぶつかり、リアウインドウが粉々になる。その音で気付いたロルフが駆け寄るが、車はオートバイを追って前進を開始。運転などしたことのないヴィニーなので、壁に車体をこすりながらの乱暴運転だ。ロルフは何とか追いついて背面のスペアタイヤにつかまる(2枚目の写真)。しかし、それ以上は何もできない。車はめちゃくちゃに走るので、振り落とされたり、何かにぶつからないようにするだけで精一杯だ。この奇妙な追跡劇は、ボーデ博物館の前、シュプレー川の中洲の最下流端の突起部分で追わる。車は急ブレーキをかけるが、間に合わずに車止めにぶつかり、エアバッグが膨らんでヴィニーとテオを受けとめる。しかし、シートベルトで固定されていなかったロルフの体は、2人の間を抜け、割れてなくなったフロントグラスの部分を素通りし、そのままシュプレー川へと落下する(3枚目の写真、矢印は飛んでいくロルフ、右端が博物館)。警察からの連絡で父がタクシーで駆けつける。2人の子供は、水中から助け出されたロルフと一緒に救急車の脇に座っている。父は、ヴィニーに、「なぜパーティに行った? 行くなと言ったろ」と詰問する。ロルフ:「俺が行かせました」。ヴィニー:「ううん違う。私が逃げ出したの」。テオ:「イノシシが車の前に飛び出したたんだ」(4枚目の写真)。「ベルリンの真ん中で?」。「うん、信じられなかった」。父は、2人を壊れた車に行かせ、ロルフと2人だけになると、「娘をパーティに行かせたのは誰だ?」と聞く。「俺です。恋をしてたから」。「たわ言だ。何で君が知ってる?」。「彼女がそう言った。どうして、あんたには話さないか? それは、あんたが振り向きもしないからだ。いつも仕事ばかりで家にいない、そして、何もかもぶち壊す。お陰で、みんな一番大切なものを失うんだ!」。「私は、破壊などしない、新たな展望を与えてる。すべてを失ったのは私なんだ。家族も妻も」。「それは間違ってる。あんたには素晴らしい子供たちがいる。いつになったら分かるんだ? ジコチューはやめろ!」。「君はクビだ。紹介所に言っておく」。「紹介所だと? 俺はナニーじゃない。あんたは、最初に来た人間を雇っただけだ。子供に邪魔されたくなかったからな」。「私の前から消え失せろ。全部取り壊す前に、肥溜めの中で最後の時を楽しむんだな」。「なんであんたの家に行ったか教えてやる」。「そうか、何だ?」。ロルフは、「これだ!」と言って、思い切りクリーメンスの顔を殴る。
  
  
  
  

翌朝、子供たちがキッチンに行くと、父がパンケーキを焼いている。そして、パンケーキを2人の皿に1枚ずつ置くと、「サプライズだぞ。今週末には一緒に旅行にでかけよう」と言う。テオが「ロルフと?」と嬉しそうに訊く。「違う、ロルフはもう来ない」。「ロルフにいて欲しいよ」(1枚目の写真)。ヴィニー:「クリーメンス、ナニーが要るんじゃないの?」。「前はそうだった。だが、もうナニーは要らない。私がお前たちの面倒をみる。これからずっと一緒だ。今日だけは、再開発事業の締め日だ」。ヴィニー:「彼の家を壊すのね?」。「昨日の あいつらを見たろ? これは、私達のためなんだ」。テオ:「自分のためじゃないか!」。「私達だ」。ヴィニー:「私たちを巻き込まないで」。「話し合おう」。「いやよ」。「分かった。3時間で戻る。そしたら、出かけよう。家族として。愛してる」。「愛してない。愛してるのは仕事だけよ」(2枚目の写真)。父は、もう一度、「愛してる」とヴィニーに近寄るが、「勝手に 行けば」と拒絶される。父は、次に、テオに「おい、親友」と呼びかけるが、反応ゼロ。そこで、「3時間だ」と言って去って行く。テオは、「僕たちこれからどうすれば?」と姉にすがるように訊く(3枚目の写真)。「考えがある」。ヴィニーはタクシーを呼び、2人で館を後にする。
  
  
  

再開発予定地区では、フェンスが張られ、重機が並んでいる。タクシーで乗り付けたヴィニーとテオが中に入ろうとするが、入れてもらえない。2人はロルフを見つけて駆け寄る。「こんなとこで何してる。危ないぞ」。ヴィニー:「戦わなくっちゃ。そう言ったじゃないの!」(1枚目の写真)。その時、予定地区の中央に設けられた壇上に父と共同経営者とニールスン夫人の3人が揃う。そこで3人が署名し、この事業に対する夫人の出資が確定し、取り壊しが始まる段取りだ。ロルフは2人に「ここにいちゃダメだ」と言うが、ヴィニーは「ここにいる」と拒否。そこに、プラカードを掲げた開発反対グループがやってきてフェンスの前でシュプレヒコールをあげる。警官隊も到着し、一触即発の事態となる。警察の放水銃を見て困惑していた父は、反対グループの中にヴィニーとテオがいるのを見ると(2枚目の写真)、檀を降りて子供たちのところに駆け寄る。立ち去れと言う父に対し、ヴィニーは、「いやよ。ここにいる。ロルフを助けるの」と断る。父がいるのに気付いたマンニが、「クリーナがいるぞ! 俺たちの家を盗む気だ!」と叫んで殴りかかろうとするが、ロルフがそれを止める。マンニの父親が爆破ボタンを押すと、100メートルほど離れて停めてあった自分のバンが爆発する〔何の意味もないシーンなので、爆発の部分はない方がいい〕。その時、共同経営者がやって来て、父に契約書への署名を求める。契約書を手にして考える父。共同経営者は、周囲の群衆に向かって、「お前達の顔なんか二度とみたくない。とっとと立ち去れ!」とわめく。そのはしたない姿を見て、父は、「やめよう」と提案する。「やめないぞ!」。父は、契約書をびりびりに破り(3枚目の写真)、共同経営者に投げつける。「お前は、一生で最大の失敗をしちまったんだぞ!!」「違った。何がお前の最大の失敗か知ってるか?! このクソガキどもだ!!」。父は、共同経営者の顔を思い切り殴る。昨夜、ロルフに殴られたように。ロルフは、「あんたは俺たちの仲間だ。ありがとう」と言って父を抱きしめる。子供たちの前に行った父は、ヴィニーに、「悪かった」と謝る。ヴィニーは、「最後には、正しいこと したじゃない」と言い、テオは、「そうだよ、パパ」と、初めて「パパ」という言葉を使う。抱き合う父と2人の子供(4枚目の写真)。ナレーション:「どんな人生でも、決めなければならない時がある。何が本当に必要なことで、何が単なる欲望なのかを〔欧米では、“NEED” と “WANT” の対比が定番〕。そして、運が良ければ、その時に手を差しのべ、すべてを変えてくれる人が現れる」。映画は、1隻の船がシュプレー川を都心に向かって下って行くところで終わる。船には、一家3人とロルフが乗っている〔場所は、左岸にMolecule Manの像があることから特定できる〕。会話の最後は、如何にもテオらしい言葉で終わる。「ねえ、淋病が何かくらい知ってるよ」。「何だ?」。「セックスでうつるんだろ」。
  
  
  
  

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